未完のエチュード ?/Giton
し、習字はへただ。
そんなぼくが寺社巡りをするようになったのは、あの男と付き合い始めてからだった。そして、付き合っていた間だけだったが‥
5月の海は、はるか遠くにあるようだった。かんかん照りの道を歩くぼくらの背後に、まひるの鏡が無数の小さな破片となって散らばるのが感じられた。ゆうべの雨でできた水たまりは、いまはぎらぎらと照り返す鏡でしかなく、ところどころ忘れられたようにある建物の屋根も、一面にまだ土色の耕地も、いまは真っ白い光をはね返していた。
まぶしい広い空だけが、その平坦な大地をおおっていた。ただ歩いてゆくことが、離れないことだけが、まぎれようのないぼくらの絆の証(あかし)
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