彼の世界/Giton
列車の通り過ぎる音がすべてを支配するこの場所では、人々の謂れ無き誹謗はもちろん、騒擾さえもが指令に従順だ。
その場所では、人はルソーの描いた起源の人のようにふるまう。空いた土地があれば柵を建てて囲い、名札を立てて胸を張る:
「この土地は俺のものだ」と。
その場所には、指令を伝える洋服姿の兵隊たち、教師たち、伝えられる商主と小作人たちのほかに、指令の圏外を装う狡賢い僧侶たちがいる。
かれらはかつて、落雷の集中砲火を浴びて絶滅されそうになった経験を持つ。かれらは根絶やしにされるかわりに、砲火を遣り過ごし、狡猾に生き延びる途を学んだのだった。
僧侶は従順を教え、あたかも指令を翼賛す
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