さよなら、お母さん。/永乃ゆち
やっぱり母のことが好きだったからだ。
一度だけ、母に抱きしめられたことがある。
酔って帰ってきた時。
『たった二人だけの家族なんだよ』
母は泣きながらそう何度も繰り返した。
母の好きな人が子どもを殴っていると伝えたら
母が傷付くんじゃないか。
そう思っていた。
お母さんの好きな人だから、我慢しよう。
そう決めていた。
でも、ある時一度だけその男に反抗したことがあった。
『顔も見たくない』
そう言うと男はにやにやして『分かったよ』と言った。
翌朝、起きてみると、男が新聞で顔を隠している。
母が不思議そうに『何してるの?』と聞いた。
その男
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