蠍の火/dopp
過去と未来を含めることができないんだよ。全てって何だい。」彼は答えられなかった。それから言った。「葬式なんかやらなくって良いからさ、見ててくれるかい。」僕はうなずいた。彼は筆箱からペーパーナイフを取り出すと思い切り首に刺して力一杯横に引いた。僕の親友は自殺者になった。すると今まで三人一緒で歩いてきた彼女が喉の奥でヒャアッと大声を上げた。僕はびっくりした。彼女は首に空いた穴を両手で押さえていた。自殺者も少しだけ不思議そうな顔をしたように見えたけど気のせいだったかもしれない。何にせよ血は噴き出していたし、彼は死んでいく最中だった。彼女はあああ、あああ、と切れ切れに焦った叫び声を上げていたけど、そのうち
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)