蠍の火/dopp
 
彼女は自殺者の顔を石で叩き潰していた。手が付けられない程の怒りようだった。僕としてはおろおろするしかなかった。僕は自殺者の親友だった。彼は言っていた。「僕は全ての為に生きたいんだ。他の全ての命、誰かの為に生きたいんだ。」僕は答えた。「全てって何だい。今まさに存在するものか、それとも過去や未来も含むのかな。仮に君が今死んだとしたら、数え切れない程のバクテリアなんかが生を得るだろうね。それを分かった上で全ての為に生きたいと言うのかな。」彼は答えた。「井戸に落ちた蠍にも救いがある、ということだよね。後から考えればその通りなんだけど、やっぱりすごく悲しいよ。何と言ってもいたちは本当にがっかりしただろうな。
[次のページ]
戻る   Point(0)