空白の館/アラガイs
 
る。
「では、これと同じようにできますか?」
医師は親指を交差させながら鳩の象を真似て羽を作って見せた。

なかなか真似て直ぐにはできなかった。考えがまとまらなかったのだ。大体対面に座る相手と同じ形象(カタチ)になるようにするには相手の左手がわたしの左手でもあり、その左右親指の向きはどちらに向かっているのか、わたしは考えた。考えれば考えるほどあたまは混乱してしまった。
脈々と血の流れる音だけが発汗を誘発する。わたしは何をしているのか、何をすればよいのか、どうして初めて言葉を習う子供のように人前に恥をさらけ出さなければならないのか。そもそもこの形象に何の意味があると言うのだ。医師の
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