空白の館/アラガイs
 
かった。
久しぶりに見知らぬ人を対面にして座ると緊張からか動機を強く感じるようになる。同時に全身から血の汗が沸き立ってくるのだ。
何を話しているのか何を話せばよいのか、何故ここに来たのかさえわからなくなる。 しばらくキーボードに指先を滑らせたままで、医師はようやく椅子の向きを変えると笑顔でこちらを正視した。
「はい、ではこれからわたしの言う3つの単語を覚えて置いてくださいね。「机」「時計」「鏡」。その前に今日は何年の何月何曜日ですか?あなたの誕生日は言えますか?
矢継ぎ早に質問攻めが始まったが、これはよくある挨拶のようなものだろう。このようなときには急に老け込んだ気分が逆に爽快にもなる。
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