ナニカ/草野大悟2
のことには一切配慮しない己の生き方に、二人とも何の疑問も持たなかったし、あれほど軽蔑していた秀明と同じ道を歩んでいることに、秀一郎は全く気づいていなかった。
大学生になった野津は、文芸部で白石理沙と初めて出会った。理沙は、存在感の薄い小柄で痩せぎすの女で、能面のようにいつも表情を変えなかった。
クマゼミの鬱陶しい鳴き声と、押し潰すような蒸し暑さから逃れて、クーラーの効いた
学食で昼食をとっていた野津は、二つ前のテーブルに一人で座ってケーキセットのコーヒーを飲んでいる理沙に気づいた。
理沙は、本を読んでいた。そこに男二人がやって来て対面の椅子に座った。
「おっ、白石、お前また一人
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