ナニカ/草野大悟2
 
で、いつも秀一郎の顔色を窺い、おどおどしながら暮らしてきた。
「女の代わりは何人でもいるんだ、気に入らないようになったらたたき出すからな!」
 秀一郎は、酔う度にそう怒鳴って秋江を殴っていた。
 秀一郎が四○歳になったばかりの一月、秀明が急性心筋梗塞で亡くなった。底冷えのする朝だった。
 いよいよ自分の時代が来た、秀一郎は、満面の笑顔で誰彼構わず言いふらして回った。しかし、あろうことか役員会で社長就任が否決されてしまった。秀明の死後しばらくたって、バブル崩壊後会社のほとんどが赤字経営を続けており、所有財産の全てに銀行の抵当権が付けられていることが判明した。ワンマン経営のツケだった。それを知
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