ナニカ/草野大悟2
の夏休みに入ったばかりの蒸し暑い日、野津がいつもより早めにプールから帰って来ると、秀一郎の物とは異なる黒光りのする革靴が玄関にきちんと揃えて並べられていた。
「ただいまぁー」
返事はなかった。
秀一郎は、出張で家を空けていた。
もう一度「ただいまぁー」と、声をあげた。やはり返事はなかった。「おかえりー」そういつもやさしく迎えてくれる幸恵の声が聞こえない。
野津はダイニングキッチン、リビング、和室、それにトイレや風呂場の中まで探した。やはり誰もいなかった。階段をそーっと上った。両親の寝室のドアがほんの少し開いていた。隙間から中を覗くと、ベッドの上に裸の男と女がいた。女は幸恵だった。
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