ナニカ/草野大悟2
野津は、部屋の隅で、がたがた震えながら秀一郎を見つめていた。秀一郎は、「こいつの目が気にくわないんだ! ガキのくせに親を小馬鹿にしたようなチロチロした目しやがって!」と、野津を殴った。止めようとした幸恵は、足蹴にされていた。この修羅場から逃れる最善の方法は、ただ黙って耐えることだ、と野津は本能的に知るようになっていった。
西海県荒木市内で会社をいくつも経営していた祖父の秀明は、晩年に産まれた一人息子の秀一郎を溺愛し、欲しがる物は何でも買い与えた。金銭的には何ひとつ不自由なく育てられた秀一郎には、他人を思いやる気持ちなどこれっぽっちもなかった。五人の妾それぞれにマンションを買い与えている、といつ
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