デリート、デリート、デリート、/為平 澪
 
目覚めれば記憶の波から押し寄せるからと
まぶたには花びらのような匂い立つ手が
幾重にも重なりあって 私の瞳は閉ざされる
脳髄の薄皮を玉ねぎを擦って剥ぐように 
捲ってはならない
球根の中心のことや花芯の執念深さのことを
想ってはならない
それはあまりにも 人の奥に通じる反対側の
道だから

          ※


カッコウの雛鳥よ、カッコウの雛鳥よ、
自分の秘密を知ってはならない
お前は親鳥がモズであると信じたまま
生きてゆかねばならない
ああ、しかし、
お前の鳴き声はモズのものではなく
正真正銘 真正面から親を呼ぶ

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