小屋/草野大悟2
今、僕は、十分に大人だ。タチワナを抱きしめたい衝動にかられた。でも、僕は、そうしなかった。陽子の写真の前で他の女は抱けない。まして、その子が陽子そっくりなら、なおさら。
タチワナは、僕に、あの「ウサギ小屋」で、佐藤陽子と過ごした僕のもっとも輝かしい日々を思い出させてくれた。
タチワナは、僕に、これまで僕から最も遠いところにあった「夢や希望」を運んできてくれた。
毎日が、きらきら、と輝くようになった。
タチワナを見ていると、溢れる光の中でウサギに餌をやり、にこにこと微笑んでいた陽子や、新体操で満面の笑みを浮かべて演技をしていた陽子が思い起こされて、僕は、とても穏やかで暖かな気持ちに
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