いつかこころが目覚める朝に/ホロウ・シカエルボク
 
ろくに声など発したことのないケモノビトの発音はまるでなっちゃいなかった
「ヨシヒロ」老婆はやさしく微笑みながらゆっくりと繰り返した
「ヨ・シ・ヒ・ロ」
「ヨ…ヒシ…シ…ヒ…ロ…」
ケモノビトは確かめるように何度か繰り返した「ヨシ…ヒロ…」
そしてケモノビトはヨシヒロになった
「良くなってきたじゃないか」老婆は手を伸ばしてヨシヒロの頭をぽんぽんと叩いた
老婆にそうされるとヨシヒロはなにか不思議に気持ちが浮かれてくるのを感じるのだった
「飯にするよ」そして老婆は猫と自分に一皿ずつ簡単な食事を用意すると
みんなで円になってそれを食べた
ヨシヒロにとっては初めて見る食べ物だったが

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