詩を書く/游月 昭
 
る私が思考しているものとなる。

 闇が少しだけ開けた。私は生まれる前の胎児になっているようである。過去へ、とは願ったものの、まさか生ぬるい風呂に潜ったようなこもった音の中へとは思ってもみず、少々慌て気味である。
 線路に車輪が弾かれる列車の中で、外界の複数の人々の声がぐちゃぐちゃになって聞こえる、そんな音の世界。おそらく母(私の母なのだろうか)はテレビを観ている。鋭い音が伸びたあと、軽快な低い管楽器の音が聞こえる。なるほど。テレビに弥七が登場したようだ。『水戸黄門』。まさかの時代劇での歓迎に苦笑いである。
 私たち胎児は皆、こんな退屈な時間を過ごして来たのかと思うと、気が遠くなる。しかし
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