サリンジャーとドストエフスキー   (現代小説と近代小説の断絶について)/yamadahifumi
 
ンはそれを止める。彼は結局、それが馬鹿げた嘘だと知っていたのだ。だから、ホールデンは妹を制止する。こうして、ホールデンは再び、彼自身が嫌っていた世界に戻ってくる事になる。ここでは、ラスコーリニコフとホールデンとのはっきりした違いが見られる。ラスコーリニコフはある線を越境したが、ホールデンはその手前で引き返してきた。…では、この違いは何だろうか?。それはおそらく、作者自身の悲劇に由来する。ドストエフスキーは越境した悲劇を、そしてサリンジャーは越境しない悲劇を持った。しかし、二人とも自己に誠実な作家であった事は間違いない。この二人の違いについては、「運命」という言葉で決着しておくしかないだろう。とりあ
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