サリンジャーとドストエフスキー   (現代小説と近代小説の断絶について)/yamadahifumi
 
。何と、やりきれない事だろう。殺人者もまた、一人の人間であるとは。彼の心を悲しみがよぎったが、彼はそれをどうにもする事ができなかった。勝利したのは、ラスコーリニコフの意識、その頭脳ではなく、彼の無意識ーーー彼の夢だった。彼は以前、夢の中にとどまっていたのだ。人を二人殺してにも関わらず。


 同じように、ホールデンは急に西部へ逃げ出す事を企てる。…でも、それが嘘だという事は、彼自身分かっている。この辺りはラスコーリニコフと同じである。全く。両者とも、自分の自意識、その精神、知性に疲れて、そこから逃げ出すことを企てるのだが、しかしその行為が嘘っぱちだという事も知っている。しかし、それが嘘だと知
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