サリンジャーとドストエフスキー (現代小説と近代小説の断絶について)/yamadahifumi
ので、次の機会に譲りたい。…とにかく大切な事は、ここでは、ラスコーリニコフがこれまでの作者の特権を抱いているという事である。彼は全世界を包含した所からスタートする。つまり、これまでの全ての作品が決着する所、終わる所ーーー個人が社会に融和する所、そのラストの点からラスコーリニコフは歩き出すのだ。そして、この歩みは重い。なにせ、ラスコーリニコフは全世界を引きずって歩いているのだから。
そしてこの事は僕達読者に否応なく、共感を呼び起こす。今人はバルザックよりも、ドストエフスキーの方を熱心に、あるいは共感を持って読むだろう。何故そんな事が起こるのかというと、上記のような作品の構造にその理由が
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