ルオー/soft_machine
ぬぐった。飛び散った黒は、女の体にところどころ泡をふき、なみだのように頬をつたっていた。それから、テレピンをかき混ぜた筆を持って流しに行きかけ、一昨日、床に放り出したままの画帳に気づいた。見ると、知らずにふみつけにした靴跡の下から私を見上げる、うつろな視線と目があった。
そしてわかった。
あの日、おさない私がかなしく見た水彩の女は私。昨日、その声を聞くまで、孤独の裡に見ていた女の姿も、私だった。
絵は、それを見る人の心の鏡だという。それとおなじように、絵を描くことで、私は自分をつかまえようと足掻いている。しかしルオーは、そこに「いのち」をこめた。いつか道に迷った者がその姿でやってくるま
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