ルオー/soft_machine
った。
「いいえ、さびしくなんてありません」
どこまでもおだやかで、澄んだ声が続ける。
「だって、ここで毎日こうしているとたくさんの人が私の前を過ぎて行くでしょう、それを見ているだけでずいぶん楽しいわ」
確かにここを訪れる人はたくさんいるだろう。しかし彼女は一枚の絵である。絵である以上カンバスの外に足を踏み出すことはもちろん身動きすらできぬ、やがて物質として消失するまでの時を、ここを歩み過ぎるだけの人たちを眺め暮らしているという。それを楽しいという。そんなばかな、こんな話は聞いたこともない。呆然とする私に、彼女はやさしく続けた。
「それに、たまにはこうしてお喋りすることもできるんです
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