ルオー/soft_machine
 
なければ、またこれから探していくだけなことだ。
 私はその壁へ身を向けた。

 絵にはひとりの女が描かれていた。
 これもルオーが、ある時期まで好んで描いたという娼婦だろうか。塗り重ねられた濃紺をバックに、ふるぼけた緑の服を羽織り、疲れきったまぶたが伏せる黒目勝ちなひとみで、どこか遠くの一点を見ている。
 ひろい肩の間から、疲れきったように伸びる、かしげた首筋に刻まれた化粧皺。かたく凝った眉間。きつく結ばれた唇は、けっしてひらかない。
 女はこの絵の中にこれまでずっとひとりで、これまで他の誰もいたこともなければ、これから先、誰も訪ねてくることもない。鏡すらない部屋。今が朝なのか昼なのか
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