ルオー/soft_machine
 
鼻歌まじりな筆の運びに、私は何度もうなずいた。
 光が照らす、こんな楽天のよろこびにつつまれていると、私はいつまでもそこに留まりたいと思う。しかし、つぎの壁にはルオーが待っていた。
 今私がここにいるのは、あの遠い日、おさない私にルオーが見せてくれた、謎の答えが知りたいから。
 昨日、画集で見たルオーは、頁を繰れば脅かすほどの迫力でせまり、ただ眺めるだけを許さない。それでいて描かれた者たちを内側から照らし、私の心も同じようにあたためた。
 その根底にあるデッサンを、ルオーほど見る者に感じさせない画家はない。ルオーを見た者の心に残るのは、 ただ人の醜さや弱さ、真の強さが何であるかが、さらけ出
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