ルオー/soft_machine
 
うすいコーヒーに口をつけ、壁に体をあずけ目を瞑ったが、もやがかかったような頭の中のどこか一部が妙に冴え、それでもしばらくじっとそうしていると、やがてぼんやり、まぶたの内に浮かび上がってきたのは、荒々しい色彩と線で描かれたひとりの女。
 私はその女に、再び会うためにこの街に来たのだ。

 二十年ほどむかし、隣県の美術館へある展覧会を見に行った時のことだ。フランス近代の名画を中心に集めた、質、量ともに素晴らしい展示で、私はひとりの女を描いた一枚の水彩に釘づけになった。
 うす暗いアパートの一室で、つめたい背中を見せてベッドに腰かけた、ひとりの女。かたくむすんだこぶしを膝に乗せ、深くこうべを垂れ
[次のページ]
戻る   Point(2)