僕が『小説』を書くきっかけになった、とても小さな出来事 (短編小説)/yamadahifumi
やらこの世界には、自分が生きている世界とは違う世界がどこかにあるんだという事を認識し始めていた。…八百屋の夫妻は、そんな僕に目もくれず、たださっさと手を動かしていた。そしてそれは彼らの中で何十年という時を紡いできた、そのような伝統的な作業なのだった。
更に時は流れた。僕は大学生になっていた。僕は上京し、そして都内の芸術系の大学に通っていた。僕は小説を書き始めていた。それらの小説はどれも、今から振り返るとごく下らないものに見える。どれこれも通俗的だし、あまりに凡庸でつまらないものだった。しかし、僕はその頃、得意で、他人の迷惑も顧みずに、その小説を嬉々として他人に見せたりしていた。すると他人は
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