僕が『小説』を書くきっかけになった、とても小さな出来事 (短編小説)/yamadahifumi
人は気まずそうに、「まあ、悪くないんじゃないか」というような事を言った。…それでも、僕は気を腐らせずに、書いた。書きまくった。僕は二十歳前後で自分が小説家になれるような気がしていた。そんな風な事を、誰しもそのぐらいの年頃には考えるものだ。だが、それは決まってうまくいかない。僕はその時期を、そういう凡庸な大学生として過ごした。恋愛もし、飲み会などで騒いだりもしたが、全ては実に馬鹿馬鹿しい出来事だった。そうやって僕の若年は過ぎ去った。
もちろん、僕は小説家になれなかった。僕は大学卒業後、普通のサラリーマンにさえなれなかった。僕は未来というものを漠然と「どうにかなるのだ」と考えていた。小説家にな
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