僕が『小説』を書くきっかけになった、とても小さな出来事   (短編小説)/yamadahifumi
 
二人の色黒の、労働者の化身みたいなその夫妻に特に注目する事もなく、ただ登校路としてその前を通り続けていた。そうやって時は流れた。僕はちっちゃな小学生から高校生になり、そしてその夫妻には皺が増えた。時が僕らに与えた作用は、ただそれぐらいのものだった。

 高校生になったある日、僕はふと、その二人を見て、軽蔑に近い感情を覚えた。その理由はよく覚えていないが、ほんの気まぐれだったのだろう。僕はその二人を見て、「ああ、この人達はこうやって人生を終えていくんだな」と思った。「この人達は、この八百屋以外の、それ以外の広い世界を知らないんだ」と、僕はそう思った。僕はその頃、文学に手を出していたので、どうやら
[次のページ]
戻る   Point(5)