/紅月
だけれど
わたしたちとうに歩くことを忘れてしまった
おおよそ「春」という示威的な文脈のなかで
水圧に握りつぶされた花々の
花弁がひらひらと水にあそび
あらゆるセンテンスの意味するきのうが
花冷えの
野にうずもれたかなしみに影をつけていく
そうして
かなしみの深淵に
春はいまにも呑まれようとしているのに
雨足はいっそうはげしくなっていく
ひどくせいけつな寝室には
不確かな喘鳴が吹きこぼれ
嘴にしろい錠剤を咥えた小鳥たちが
窓辺に列をつくっています
おとずれる反作用が花弁のように拡散して
床に散らばったきのうの骨がから
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