/紅月
からからと
街に雨を降らせつづける、
水、浸される寝室、閉ざされた春のきのう、
きのう、咲きそびれて、
反響、しています、それは(わたしの
いくつめの骨ですか
かなしみをうつくしく飾っておくために
かなしみのかなしみという蓋をそっととじて
ふかく埋めた花冷えの野に
降りそそぐ雨が
福音となって
春をやさしい隠喩のなかに浸すとき
殴打されるわたしの
きのうが、わたしの影になって、
わたしを追いこし歩きさっていく、
遺されたわたしは、わたしの影だから、
わたしを追いかけなければならないんだよ、
といって、影となったわたしは、
わたしを追いかけ、追いこし、
追いぬいた影をわたしは追うのだ、
そうして、
そこに遺された足跡をかなしみと呼び、
かなしみのかなしみという蓋をそっととじて
ひとりのわたしは
それを花冷えの野に埋める
たとえ
きのうのわたしがそれを掘りかえしても
かなしみは曖昧なかなしみとして
そこに昏々と眠りつづける
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