梅雨/蒲生万寿
その場を明るくしているというのに
燕は
この雨の止み間を狙って
雛にせっせと餌を運んでいるというのに
烏は
甘えた声を上げる巣立ち雛を従え
生きる術を教えているというのに
この雨粒一つ一つの意味を知らぬまま
人々は朝に溢れ
昼に惑い
夜に彷徨い
一日を徒労に終える
この世の主役を
勝手に買って出たというのに
もはや為す術がない
行き詰まってしまった挙句に
遠くから軍靴の音が聞こえて来る始末
それでも浮世の春は永遠とばかりに
だんまり
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