ヤマダヒフミの消失/yamadahifumi
いう人格になりきって、小説、批評、詩を書き、そしてそれをインターネットを通して世界に送り込んだ。それに対する視聴者の数は決して多くはなかったが、しかし、彼にとってそれは、そのみすぼらしい実生活よりははるかにマシなものだった。彼の元に来るのが、批判であろうと賞賛であろうと、それは少なくとも、現実生活のあの濁った、薄ぼんやりとして半透明な、是か非かわからない曖昧な雰囲気の空間ーーそんなものよりはまだマシなはずだった。だが、人が年を取っていくのはそのような空間での事なのだ。人は、自分が世界のどの位置にいるのかも知らずに、ただわけもわからず様々なことを喚きながら、老いていく。そして、桐野もまた三十の年にな
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