Mirage/ハァモニィベル
くなり始め、明るさの萌すM区域に達した辺りに、一匹の山羊がいて、俺は
足早にそこを通りすぎようと、歩を速めた。その俺の背中に、とつぜん山羊が鳴いた
それは、俺の心を捕らえて離さぬ音だった
その声には、あらゆる人と人生の哀しみが篭っていた。
俺は泣いた。男は山羊になっていた。魂と叡智の宿った瞳。
その声は、……まさしく謌だった。
* * *
旱魃の中を征く 破竹の水黽が ジャリジャリする砂の上を滑っていた
無限に吐き散らされた吐瀉物のような熱砂の上を ただ朦朧と 雑巾がけでもするように
否 否 否 熱風に煽られて其の身で雑巾がけされているように、が正確なんだ
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