あれかこれか/ハァモニィベル
な、丁度、数学の積分記号を真横に寝かせた如き形状の、金色のノブが、最近付けられたに違いないと確信できるほど、地味な扉とは対照的に光っていた。何か特別な意味を秘めて、それだけが、妙に、鮮やかに浮き出しているようで、触れなければならないと、心のどこかで思いながら、その一方で、〈畏れ〉が、触るのをためらわせてもいた。しかし、他を見渡しても、廊下の先は、右も左も真っ暗闇であり、恐ろしいほど昏くて狭い鈍色のこの廊下にあるのは、壁に亡霊のごとく浮かんで眼前している燻したような焦げ茶色の、この扉だけだった。けれど、そこでは、妖しすぎるほど眩い金色の輝きが、今、私をひたすら立ち止まらせるように圧迫しているのだ。こ
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