あれかこれか/ハァモニィベル
 
婆娑 婆娑 婆娑婆娑 婆娑 婆娑
と、
徐々に数を増して舞う、真黒な蝶たち。
は、やがて、
夥しく群をなし、 晴れていた空を嘘のように
一瞬で、
掻き消した。
と見るや、

その瞬間、その
黒い雷雲の天井から、
底を、
土砂降りの雨の牙が襲った。




** 3 **



気がついた時には、もうその扉が眼の前にあった。
見たことのない、古ぼけた臭いのする昏い廊下に、なぜか私は独り立っていて、いま、眼の前にあるこの扉だけは、奇妙に懐かしいような気がしているのだった。見ると、古びて燻んだ木製の扉には、特徴のあるノブが付いており、S字を横に長くしたような、
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