あれかこれか/ハァモニィベル
 
、当然のように眺めはじめた。すると、彼女の鮮やかな色以外は、まったく周囲の習俗に溶け込んで見えなくなる。手にしているその枠の中にしか世界が無いかのように。
    *
女は携帯で小説のつづきを読みはじめた。話題のベストセラー作家、退紅一斤(あらぞめいっこん)のミステリ小説『猩々緋の迷宮』だった。その中で、死体の傍に置かれた謎の暗号文が出てくる例の箇所をじっと見ている。

  朽葉は、香りながら錆びた。
  曙に丹心の茜、
  白橡に昇る 復讐の'あさひ'
  石竹をみよ紅梅をみよみよ蘇芳

    *
彼女の秀麗な眉がキッとつりあがった。その瞬間、「白橡」の読み方が解らずに苛立
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