あれかこれか/ハァモニィベル
 
トの、蝉を喰った土竜のような笑顔をスナップし、
コクのない日々の臭いと、断片化した日々の匂いを、小型の試験管状の容器に次々に採集してゆく。
最期に、寂しがり屋のマネキンが水のような涙を流すのを背に、男は流れに流されるまま立ち去った。
「千年前は、まだスマフォなんだな」
 ――そんな奇妙なつぶやきを遺して。







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フェラーリのような女が颯爽と乗込んで来た時、電車内は満席だった。
    *
女は、妙に似合う黄色の吊革を掴んで立ったまま、彼女よりちょっと薄紅がかった、シャア専用といった感じの、携帯電話(スマフォ)を取り出すと、当
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