あれかこれか/ハァモニィベル
 
てはならない。
北隅の樹陰に埋められた〈怨み〉よ。

歴史を持った旧い洋館が建つ、鬱蒼と憂鬱なその庭に、
やつれ果てた黒衣の女主人が、踞り、
何かを摘んでいた――草。オトギリ草。

黙黙と草花を摘んでいるように見えた口から漏れる、
幽かな呟き。「アビダルマダイビバシャ、あびだるま・・・、
阿毘達磨大毘婆沙阿毘達磨大毘婆沙・・・」

踞る黒衣の上を、
やはり同じような黒いものが、
しきりに飛び交っている――蝶。黒い蝶だ。

   バサバサ、ばさばさ、婆娑婆娑
と、
   婆娑婆娑 婆娑婆娑 婆娑婆娑 婆娑
   婆娑 婆娑婆娑 婆娑婆娑 婆娑婆娑
   婆娑婆娑
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