聖徳太子/竜門勇気
、異国の音楽のようである。
ブナの倒木に私の腰掛けた痕跡が心地よく風景に浮き上がっている。
恒例のゆるい唸り声に裏山の動物が集まり始めたのが今年の初め雪のひどい日だった。
寒さに震えながら動物に囲まれゆるい弦を揺らし続けたものだ。
そして今月のことである。ついに私の知る山からは隅々に至るまで雪は消え失せた。
濡れた下草に指を濡らしながらブナの倒木に辿り着きゆるんだ弦を揺らし、冬眠から覚めた生き物も交えてコンサートを開いているとそれはあらわれた。
いかなる山野の住人とも違う姿。聖徳太子だ。
太子はまごうことなく厩戸皇子その人といった威厳にあふれていて、俗世の権威とは縁を切ったと
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