頼りないショパン 不器用なベートーベン/夏美かをる
うピアノ教室に行きたくない」
だけど母は聞こえなかったのか、
何も言わずに私の手を引いて
馴染みの商店街をぐんぐん歩いて行った
そして 教室に着くと
いつものように買い物にはいかず
隅の椅子にそっと腰掛けた
緊張してますます動かなくなった私の指
なのに 初めて叩かれなかった
やがてお帰りの歌がやっと終わって
先生にお礼を言うために立ちあがった時
母のよく通る声が突然教室に響いた
「先生、お世話になりました。
この子が辞めたいと言っているので
今日で最後にします」
一瞬呆気にとられた後
その教師は白々しく言った
「あら、残念ね〜。
この子は才能があ
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