頼りないショパン 不器用なベートーベン/夏美かをる
があると思ったのに」
私のお洒落なショパン様の夢を
惜しげもなく踏みつぶしておいて…
それ以来私はピアノを弾いていない
九歳の私の娘はピアノを習いたいなど
一度も言ったことがなかった
だけど作業療法士の先生に勧められた
二か月悩んだ後 メモに書かれた七桁の番号を押した
「あの、うちの娘はこういう子なんですけど…」
背中に汗を一杯かきながら説明する私に その先生は
「とにかく連れてきてみて下さい」
と それだけ言った
あれから一年
未だ全部一緒に動いてしまう娘の指が
ポロリ、ポロリと奏でる
『歓びの歌』
それでも
[次のページ]
戻る 編 削 Point(30)