頼りないショパン 不器用なベートーベン/夏美かをる
 
目を瞑って鍵盤にそっと乗せるだけで
軽やかに舞い始める私の十本の指
やがて目の前にお洒落なショパンが現れて
揺れる私の肩をそっと抱いてくれる





「お母さん、私ピアノを習ってみたい」
五歳の私の唐突なリクエストに応え
早速母は近所の教室を見つけてきてくれた

だけどそこの女教師は
小さな私の指を叩く 叩く 叩く
違う、違う、違うと言いながら

この音楽が終わったらピアノ教室に行く時間―
3時のワイドショーのテーマ音楽が聞こえてくると
私は息苦しさを覚えるようになった
                      
ある日 私はついに告白した
「もうピ
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