【小品】囚われ/こうだたけみ
、もう日は暮れたし夏場でもないし、少しばかり冷蔵庫に入れるのが遅くなっても問題はない。だけど、だけどあの男はどのくらいここに斜めに立っていたのだろう。ここは住宅街の真ん中だから夜中以外は多少なりとも人通りはある。あんなに冷静でいられるところを見ると、一時間も待たずに私と出会ったに違いない。だとすれば、私だってそう待たなくても次の人に代わってもらえるかもしれない。でも待って。何か、何か忘れていることはない?
私はふいに思い出す。そして、昔々教わったおまじないの言葉を口にした。
「いいえ、私は垂直に落下する」
世界がさっきとは逆回転して、私は元通り真っ直ぐに立っていた。私に背を向けて歩き出し
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