Amekuri/Debby
 
 雨繰りはもうずっとその町に暮らしていた。都下電車で49分。辛うじてマンション販売の吊り書きに「通勤一時間」と書ける街で、彼は暮らしていた。
 暮らし向きはそう捗々しくない。週に四度ばかり都心に働きに出る。日当で一万四千円、悪くない稼ぎだが仕事はそう多くもない。彼が週に六日働けば、誰かの仕事がそれだけ減る。本人には大変失礼な話だが、誰の仕事が減るかはおおよそ察しがついている。シンドウさんは物覚えこそ悪いが悪人ではない、だからそれはあまりよろしくない。そういうわけで雨繰りは週に四度の働きに満足していた。

 雨繰りは平日に休む。大体は月曜日だ。彼の住む町には二軒の床屋があり、そのいずれもが示し
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