詩集『十夜録』全篇/春日線香
 

ただ人を待っていただけだ
だんだんいらいらしてきて
寝巻きのまま外に飛び出した
空気は生ぬるい
五月の闇に輪郭がぼやけて
夢の中を歩いているようだ
と気づくと道のそこらじゅうに
ぬめぬめしたあめふらしが這っている
足の踏み場のないほど
憎いあめふらしが這っている
もうどうにもできぬと悟り
立ち尽くした





 なんこつ忌

子供が川に流された
何日探しても上がってこないので
親でさえも諦めていた頃に
川下で漁師の網にかかった
肉はきれいに削げ落ちて
透明ななんこつになっていた
それらを木屑や藻から選り分けて
ガラスの骨壷に収めると
光の
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