セリヌンティウスの告白/末下りょう
そんな事は知ってるよ。とっくの昔から。作者も。メロスは走れ、走れ、と色んなところから言われ、自分でも(雨中、矢の如く)(黒い風のように)走っているつもりだけど、(愛と信実の血液だけで動いている心臓)は、脈打つように歩いていた。裏切りのなかを走るように歩いていた。(人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ)と自分を疑い、恥じながらなんとか歩いていた。走れ、走れ、と言われながら。カッコつけて、自分で蒔いた種で友を巻き添えに、信頼と裏切りのただなかを必死に歩いた。間抜けなメロスは、走れ、走れ、と急かされながら走ってる気になって歩いた。
人間は自分より器の大きな人間の器を、決して計ることが出来ない。
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