春の夢/碓氷青
 
っ込んで、五六粒の種子を掴み取ると、それらを空へ、飛ばせた。種子は春の空をチョウのように舞い、刹那には土に眠った。<彼>はもう一度、袋に手をつっ込んで、種子を掴み、飛び立たせた。彼らは刹那に空を舞って、土に眠った。そうやって、<彼>の袋にあった百粒くらいの種子はみんな空を舞い、土に眠った。そして、彼らは揺蕩ったこころにまたこころを繋ぎ合わせるようにして、芽吹き、背伸びして、春を咲かせる。
芽吹いた、背伸びした、春を咲かせた彼らは美しかった。その美しさをいちばん知っていたのはチョウだった。パレットの上でまぜた白色と黄色のような色と、ボクラにはつくりだせない黒色が滲んだ翅を浮かばせながら、何匹ものチ
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