見張り塔を、降りて/末下りょう
ペダルを漕ぐと
風が、錆びたカゴを
震わせた
国道にある自販機で
熱い缶コーヒーを買って、
カゴに入れた
通りはまだ静かで
車も少なく、野良猫も鴉もいない
赤い橋を渡り
歩道に自転車をとめて
土手を降りた
灰色の空は
プラスチックを溶かしたような匂いのする
呼吸を白く、映して
ごまかす指が
缶のプルを引いた
川辺にレインコートが捨ててあって
宇宙服のために
拾って
水面は穏やかで
小石を投げると
跳ねずに沈み、缶のコーヒーが少し
零れた
雲が切れて
微かな日が差しこみ
なめらかな仮説を
1羽の水鳥が
鳴いた
でも、雨
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)