つばさが消えない/千波 一也
は
ときに
あまりに
むごすぎるから
わたしはせめて
やさしくはぐらかしてやるしかない
「おまえの駆けたかった野原だよ。」
「おまえの仰ぎたかった空だよ。」
そして
「ごらん。真昼の月を。真っ白だろ。あれは罰だ。夜をさまようものたちを迷わせた罰だ。心細い夜の闇を逆手に取って、月は好き放題に語るからね。だから、気にしなくていいんだよ、坊や。みんなみんな、月の戯言だ。」
だれも望まないつばさだったね
あれは
確かに
だれも望まないつばさだった
昇るとするならば、架空
昇るとするならば、
水面にみえる水底の底
ならば
結局だれをも救わない
それゆえの
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