つばさが消えない/千波 一也
 

だれも望まないつばさが
わたしの背から
消えない
一度だけ
一度だけのつもり、で
おまえの軽さを助けた日から
わたしの背から
つばさが消えない

助けた、と
思い上がっているうちは
決して消えることのないだろうつばさを
つばさのその性質を
わたしは理解しないわけではないから
なおさらに
消えない

あれは
赤い目をした
やんちゃな白うさぎだった
はげしい抵抗を示す、肉の裂け目と
無情な血
うつろに停まった目は
最後、どんな理由で小屋を振り返ったのだろう

赤い目をしたうさぎの耳に
もう
取り戻せない時間が響く
そのたびに
こころを持ってしまった命は憂い
いのちを持ってしまった心は慰め
複雑ではないはずの
花や星や風たちを複雑にしてしまった

もう
取り返すべきではないと
なにものにも平等なことばで
いえる日が来たならば
わたしは
しずかに
裂こうとおもう
この背にはえた赤いつばさを
渾身の力で裂こうとおもう











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