春の夜 ひいながたり/そらの珊瑚
 
部屋が騒がしいようだけど」
「はい。ここの家の奥方さまが、子をお産みになられる、とかで。自宅分娩の真っ最中でございます」
「奥方とは、わたくしたちの持ち主の綾ちゃんの母君ですね」
「はい」
「それはめでたきこと。安産をお祈りいたしましょう」
 ぽん、ぽん、ぽぽぽぽーん。五人囃子の小鼓の音を合図に、おごそかに音楽が奏で始められた。
 しばらくするとお屋敷に衛士の声が鳴り響く。「殿のおかえりィー」玄関に牛車(ぎっしゃ)が横付けされた。
 やっと帰ってきた冠を被った凛々しいお内裏様を、沓台を持った従者が出迎える。それから真っ先に金屏風のお部屋へ向かった。
「おかえりなさいませ」
「やあ
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