夜更けの紙相撲・2014.2月/そらの珊瑚
磨いていたおじさんの顔をしみじみと想った。
石屋のおじさんは私が中学に入る頃、白血病を患い入院した。一度だけ母につれられ、病院へ見舞った。
おじさんは個室の日当たりのよいベッドの上で
「よく来てくれたねえ」
と笑った。やたら元気の良いおばさん(おじさんの妻)が林檎をむいてくれた。何か話さなくてはと焦りながら、意気地のない私は何も言えなかった。そのことを漱石庵で私は悔やんでいた。
おじさんはすっかり乾いていて、生まれて初めてその時、私は死というものを意識した。
しばらくしておじさんは亡くなった。今の私よりたぶん若かったのではないかと思う。お子さんはなく、先日帰省した折には、
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